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札幌高等裁判所 昭和23年(わ)30号 判決

上告人 被告人 大橋金藏 外一名

辯護人 高岡次郎

檢察官 加藤成正關與

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人高岡次郎上告趣意書第一點原判決は擬律錯誤の違法あり原判決の確定したる事實は第一(一)上告人は函館港運株式會社の艀船頭なる第一審相被告人夏井金次郎同艀船市と共謀の上昭和二十一年十二月五日午後十時頃より同十時三十分迄の間函館市仲濱町九番地函館税關脇岩壁附近海上に假泊し夏井及安立が乘組勤務中の同會社所有艀に積載し同會社保管に係る國所有の輸入エジフト産散原鹽八千キログラムを之を奪取る爲差廻したる他船に積移して竊取し(二)上告人及び原審相被告人齋藤安太郎は同會社の艀船夫なる第一審相被告人佐々木安太郎と共謀の上同日午後十時四十分頃より同十二時過頃迄の間前同所海上に假泊し右齋藤及佐々木乘組勤務中の同會社所有艀に積載し同會社保管に係る國所有同上散原鹽二千キログラムを前同樣他船に積移して竊取し(三)上告人は原審相被告人小林新三郎と共謀の上同月十三日午後九時頃より九時三十分頃迄の間前同所海上に假泊し右小林新三郎が乘組み勤務中の同會社所有艀に積載し同會社保管に係る國所有の同上散原鹽掃溜物五百二十キログラムを前同様他船に積移して竊取し(四)上告人は前記安立政市と共謀の上同日午後九時四十分頃より十時三十分頃迄の間前同所海上に假泊し右安立が乘組勤務中の同會社所有艀に積載し同會社保管に係る國所有の同上散原鹽掃溜物二千二百八十キログラムを前同樣他船に積移して竊取し(五)上告人は前記小林新三郎原審相被告人成田源次郎及び同中村榮吉と前記安立政市及び元船員第一審相被告人佐藤甚七と共謀の上昭和二十二年一月十三日午後七時頃より同十時頃迄の間同町三番地株式會社小熊倉庫附近海上に假泊し右小林新三郎が乘組み勤務中の同會社所有艀に積載し同會社保管に係る國所有の同上散原鹽一萬六千キログラムを前回同樣他船に積移して竊取し第二上告人は法定の除外事由なきに不拘營利の目的をもつて(一)第一審相被告人大谷桝太郎と共謀の上右大谷に於て昭和二十一年十二月七日函館市幸町三番地油屋幸次郎方にて右油屋及第一審相被告人丹羽義一を介して北海道茅部郡尾札部村字尾札二十七番地漁業竹原一實に對し前記第一の(一)(二)の散原鹽(計一萬キログラム)中八千キログラムを昭和二十一年四月一日札幌地方專賣局告示鹽第九八號同日同局鹽腦部長通知小賣人秤賣價格一キログラム當金一圓二十錢計金九千六百圓を合計八萬四千圓を超過する代金九萬圓にて販賣し其の頃該代金を受領し(二)上告人單獨にて同日同所に於て前記兩名を介して前同竹原一實に對し前記第一の(一)及び(二)の散原鹽二千キログラムを前同制限價格金二千四百圓を合計金一萬七千六百圓を超過する代金二萬圓にて販賣し其の頃該代金を受領し(三)上告人は前記大谷桝太郎と共謀の上右大谷に於て同月十日函館市西濱町二番地三崎誠一方にて同人に對し前記第一の(三)(四)の散原鹽(二千八百キログクム)を昭和二十一年十二月十日札幌地方專賣局告示鹽第七〇八號同日同局鹽腦部長通知小賣人秤賣制限價格一キログラム當金一圓三十錢計金三千六百四十圓を合計金二萬四千三百六十圓超過する代金二萬八千圓にて販賣し其の頃該代金を受領し(四)上告人は昭和二十二年一月十三日同市大黒町二十五番地第一審相被告人太田泰正方に於て同人に對し前記第一の(五)の散原鹽一萬六千キログラムを前同樣制限價格金二萬八百圓を合計金十三萬九千二百圓を超過する代金十六萬圓にて販賣し其の頃該代金を受領したりと云うに在りて前記第一の(一)乃至(五)の事實並に第二の(一)乃至(四)の事實は各何れも連續にかかるものとし第一の各事實は竊盜、第二の各事實は物價統制令に違反するものとして夫れ夫れ竊盜並に物價統制令に關する法條を判示の如く適用したる上右竊盜並に物價統制令違反に付併合罪なりとして刑法第四十五條前段を適用し重き竊盜罪の刑に法定刑を加重し同第四十八條第一項をも適用して懲役三年罰金五萬圓に處したるものとす然れども竊盜罪は不正領得の意思をもつて遂行せられ財物を竊取すると同時に法益は侵害せられて竊盜罪の既遂となり竊取したるものを處分することは不正領得の具現に外ならすされば竊盜當然の結果として敢て他罪を構成せざるものと云ふべく其處分行爲が偶々他の罪名に觸るる場合在りても刑法第五十四條第一項は勿論同第四十五條前段を適用處斷し能はざるものとす(大審院第二刑事部昭和十六年十一月二十四日判決)然り而して前記第二の(一)乃至(四)の事實は第一の(一)乃至(五)の各竊取したる散原鹽販賣處分が物價統制令に觸るるに至りたる事實に徴する時は特に竊盜により領得したるものを處分したる結果に過ぎざるをもつて獨立せる罪として竊盜と併合罪なりとし刑法第四十五條前段を適用すること能はざるに不拘原審は事茲に出でず前記竊盜並に物價統制令違反を各獨立罪として夫れ夫れ問擬し前記の如く科刑するに至りたるものなるをもつて原判決は此點に於て到底破毀を免れ難きを確信す、というにある。

竊盜犯が竊取した財物を處分する行爲は犯罪とならないとするのは正しいが、それは、その處分行爲が同じ違法行爲の單なる連續である限りにおいて正しいのであつて、もしその違法の状態が罪質の異なつた違法行爲に發展しているならば、それは、同じ違法行爲の單なる延長以上のものであつて、全く別箇の犯罪を成立せしめるものとしなければならない。原判決の場合、被告人が判示盜品を賣却した行爲自體は横領罪にも詐欺罪にも該當しないが、その賣渡價格が統制價格を超えている點で全く罪質の違つた違法行爲(この犯罪は竊盜罪と異なり財産權侵害の有無にかかわらず經濟秩序を紊乱したか否かによつてのみ、成立し又は成立しないことゝなるのである。)に發展しているのであるから、もはや竊盜の延長である違法の状態の埒外にはみでているものといわざるを得ない。しからば、原判決が判示事實に基いて、竊盜罪の外に物價統制令違反の罪が成立したものとし、兩者を併合罪の關係において處斷したのは、正當であつて、論旨は採用の餘地がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

右のように本件上告はいずれも理由がないから、これを棄却すべきものとし、刑事訴訟法第四百四十六條を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 原和雄 裁判官 藤田和夫)

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